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小林白兵衛

毎日人が集まるその作家の器には、人となりが滲んでいた。

「俺は欲張りだからさ。何でも自分でやりたくなるんだ」

 白兵衛さんは言った。そんな白兵衛さんの家は自身で作ったものである。

「意外と簡単だよ」

そう言った少しいたずらな笑顔は、まるで子供のような印象を受ける。前庭には、奥さんが耕して植えた麦の苗が育っている。パンを作る人はいるが、小麦から作る人はそうはいない。あたりを見回すと白兵衛さんの作った大きなオブジェが日の光を浴びている。緩やかな山間にたたずむ彼の家は異国の匂いを感じさせる。そして、気持ちのいい日差しは時間を刻むのを忘れさせ、春の訪れを感じさせた。

「新緑の季節のここの景色は最高だぜぇ」嬉しそうに語る白兵衛さん。

玄関には産まれたばかりの5匹の子犬たちが、よちよちと歩き回っている。そんな空間から産まれた作品は、ここからでしか作り得ない味わいを持っている。

必ず友人が集まっている場所

「最近は明日やろうって思うようになっちゃってだめだね〜」

白兵衛さんはまた笑いながら言った。昔は思いついたら、その日にその思った事ををやり始めていたという。そうやって家も、窯も、畑も全て作って来た。しかし、そうは言うものの、その溢れるエネルギーは健在のようだった。なぜなら、僕らが白兵衛さんと会う時には、友人が必ず訪れているからだ。それは、白兵衛さんのエネルギーに引き寄せられているように見えるからだ。この撮影の日も、花を持って立ち寄った近所の方に始まり、数名の人が顔を覗かせた。先日の陶器市の時には、なんと14人もの人たちが家に溢れかえっていたという。白兵衛さんの独特な風貌と笑顔、そして優しい口調に多くの人が吸い寄せられているのだ。

陶芸作家、小林白兵衛。

彼は20代の後半まで、世界を旅していた。山登りが好きで、世界の山を登りたくなり、海外へ出た。すると今度は海外へ出た事で、旅をする事が好きになり、世界中を旅して回り始めた。夢を叶えると次へ次へと、新たな夢が広がるタイプのようだ。オーストリア出身の奥さんはそんな旅の途中で知り合った人だという。ザルツブルグ、ウィーン、インドと、3回も“偶然”に海外で出会った。それは、まさしく運命と言える。2人はやがて結婚し、この地に根を生やした。

生活一式、全てを自分でやってみたい

「生活一式、全てを自分でやってみたい」そんな事を彼は言った。その言葉どおり、ごちそうになった昼食の皿、箸、目につく大概のものは彼の作ったもの

のようだった。前夜の残りのロールキャベツを乗せた、平たいうどん。その料理も白兵衛さんが作ったものである。それを、家の前のテラスで食べさせてもらったが、きれいな空気も手伝って格別の味だった。

 白兵衛さんは、絞り染めで有名な生前の久保田一竹さんとの交流があった。一竹さんが開催した能舞台にも立った経歴を持つ。

「一竹さんは、本当に面白い人だったなー」

と語る白兵衛さんはとても嬉しそうで、この工房にも一竹さんが訪れた事を話してくれた。芸術家は芸術家を知る、そんな言葉が思い出された。

「もしかして一竹さんの美術館のような場所を作ろうとしているのですか?」と質問すると、とんでもないと笑って答えた。しかし、広い敷地の南南東には新たに家を建てようと、コンクリートで作った基礎が既にできていた。案内を頼むと、嬉しそうに、

「ゲストハウスだよ。ここが玄関ね。それで、ここから入って…、ここが洗面所で…」

とその家の構想を語ってくれた。本当に楽しそうだ。その顔にはやはりエネルギーが溢れ、夢を見る子供のようだった。

「今度何か出来ることがあれば手伝わせてくれませんか?」

思わず口から出てしまった私の言葉。

「あ、言ったなー。じゃあ、次はばっちり働いてもらうか〜、はは

は」

冗談半分で笑いながら彼は言った。

 人を巻き込むが、決して嫌な思いをさせない才能。圧倒的なウェルカム精神。

だからこそ人が集まる。彼の作品を見ればわかると思うが、作品にはそんなおおらかさが滲みでている。

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